LAにクリスティーという女の子がいた。
少し茶色が入ったブロンドヘアでそばかすの、カリフォルニアがよく似合う陽気で可愛い女の子だ。
そのクリスティーと2人で乗り込んだ、アナハイムにあるディズニーランドの、カリブの海賊のゴンドラの中。「好きです。距離はとんでもなくあるけどつきあってください」と告白するつもりでいた僕はどうしようもなく落ち込んでいた。
二人きりの人口的な冒険が始まってすぐ左手に見えてきた掘っ立て小屋にいた薄汚れたジジイの人形を見てクリスティーが笑ったその英語が、まったく分からなかったからだ。
僕はそのとき英語が難しいことで有名な大学に通っていたから英語には自信があったのに、というか、中学一年からそれなりに大量の時間を英語の勉強に捧げてきたのに、分からないのだ、クリスティーが何と言ったのか、全然、まったく。
なんなんだよ、バカやロー!
それまでの人生で一番時間をかけ、一番努力し必死で学んできた英語がまさかここまで「使えない」とは!!! 僕はなにがおかしいのかまったく分からないクリスティーに愛想笑いを返しながら、心の中では憤怒し号泣した……
うん、無駄だった。気持ちよく無駄だった。
以上の話は、今から30年以上前、僕が大学3年から4年になる春休みのこと。
久しぶりに会った高校の同級生が「どえらい安っすい短期留学見つけたんだて。一緒に行こまい」と誘ってくれて、いや安いっていっても留学だろ? 金額的に行けないよね、と思いながら話を聞くと、現地の一般家庭にお世話になりつつ、平日の朝から夕方までは英会話スクールに通う3週間のホームステイコースで、エアも含んで17万円台(この頃は消費税など存在していない)。確かに「どえらい安っすい」。それなら、バイトを頑張れば行ける価格だ。
っていうか行くでしょ、おれ。
だって行き先はLA、ロスアンジェルスだぜ!
メルローズでレコードを掘り、アボットキニーで服を探し、ダウンタウンでクラブに揺れ、ロングビーチでビールを煽る……想像しただけでココロオドルじゃないか。しかも、お世話になる家庭に同じ年くらいのブロンドヘアの可愛い子ちゃんがいて、瞬間的に恋に落ち、猛然とアバンチュールな日々を過ごしてしまうかもしれないじゃん。行かない手はないでしょ!
と。青い時にありがちな桃色の妄想が僕を駆り立て、3ヶ月の過激なバイトを死にそうになりながらなんとかクリアし、カリフォルニアの空の下にやってきたのに。なのに……まさか……僕の英語がこんなに「使えない」なんて……
無駄だった?
僕が英語に捧げた大量の時間は、ただの無駄だった?
うん、無駄だった。気持ちよく無駄だった。アナハイムにあるディズニーランドの、カリブの海賊の2人きりのゴンドラの中で「使えない」なら、そんな英語に意味などない。1ミリもない。
意味などない。1ミリもない。意味などない。1ミリもない。意味などない。1ミリもない。意味などない。1ミリもない。意味などない。1ミリもない。意味などない。1ミリもない。意味などない。1ミリもない……クリスティーに告白することなど、許されないのだ。思い上がるな!
そこから先の僕のアナハイムでのデートがどんな悲惨なことになったのかは、改めてここで書くまでもないだろう。
僕はいまだに夢を見る。あの時の僕の英語が「使える」ものだったら……あんな惨めな想いをしなくても良かったし、僕はクリスティーとめくるめくアバンチュールな日々を過ごすことができたのに。
こうして僕は「使えない」ものを恨むようになった。
それからずっと僕は「使えない」ものを恨んでいる。
「使える」ことだけを考えた『禁断の心理話術』
僕の講師としての理念「使えるものしか、伝えない」は、この遙か昔の怨念から湧き出ている。
当然、自分で使って効果の出たノウハウやテクニックしか伝えないし、もっというなら僕だけではなく、僕が伝えた人たちから「やったらすぐに効果が出ました!」と反応があったことしか伝えていない。
特に再現性の部分。僕以外の人がやっても効果が出る、ということには最大限気を配っている。「使えないものを伝える」のは有益でないばかりか、害悪だからだ。
なんて、僕がどれだけ吹き上がっても。
「は、理念? そんなのあんたの勝手だし、再現性に気を配っているって書かれても、言うだけなら誰でもできる。あなたが『使えないもの』を嫌いな理由は分かったけど、それであなたが『使えるもの』を伝えられるって証明にはらないよね」
とあなたは当然思うだろう(僕ならそう思うからね)。
そこで、この報告だ。
全文の公開許可をもらったので、ご覧いただきたい。
ご著書、今日の午前中に届きました。昼に少し時間があったので読み始めたらグイグイ引き込まれ、半分ぐらいはあっという間に読んでしまいました。
午後一に部下と、部下がそれから向う折衝相手の準備を一緒にしはじめたところ、向かう相手がまさに本で先ほど読んだばかりの『親分タイプ』のお客様(経営者)。部下の遠い親戚だったのですが、「上司は連れてくるな」と言われているとのことだったので、どう対応したら良いかという話になり、さっそく本に書いてあった「禁断の心理話術」を伝授。本の中でナビゲーター役を務める博士と助手のやりとりも含めて、「具体的にかつ分かりやすく」説明したら「なるほど!」と。
結果、初対面にも関わらず一気に気に入られ、明日、私と一緒にお申し込み手続きをしに行く事になりました(上司とは会わないって言ってたのに。笑)
いや〜まさに劇薬! 禁断の心理話術!!!
この本と、書いてくださった岸さんに感謝です。
ありがとうございました!!!
僕の著書「相手を完全に信じ込ませる禁断の心理話術 エニアプロファイル」に対していただいた報告である。(ちなみに「博士と助手」とはこちらで活躍している二人のことである)
この本のベースになっているのは「エニアグラム」という性格分析論。エニアグラムについてはまた項をわけて説明するつもりだが、ザックリ言ってしまうと「自己成長のための人生の地図」。それを対人スキルとして『使える』ようにまとめ直したのが「禁断の心理話術 エニアプロファイル」だ。
たったひとつの報告だけでは「使えるものしか、伝えない」証明にならないことは百も承知である。
それでも僕は言う。
僕は「使えることしか、伝えない」。
僕はもうすぐ55歳になる。
バリバリ働ける実働時間のエンドは着実に近づいている。
そんな中で、自分を裏切ってどうするのだ? 若き日に泣いて、いまだにグチグチ引きずっている「使えないもの」に対する恨みが自分に被ってくるようなことをしてなんになる?
もちろん、信じるも信じないもあなた次第。
けど、もしあなたがセールスでも、恋愛でも、社内の人間関係でも。対人関係に困っていたり、もっとよくなればいいなと考えているなら、ぜひ「相手を完全に信じ込ませる禁断の心理話術 エニアプロファイル」を手にとって読んで欲しい。徹底的に「使える」ことにこだわったスキルが、この本には書いてあるから。
illustration たかみまさひろ