サブリミナルの力

サブリミナル効果で洗脳されるって本当か?

 

このブログは「サブリミナルリンク」という名前であるが、そもそも「サブリミナル効果」で洗脳されるというのは本当か? いや、その前に「サブリミナル効果」はほんの少しでも実用性があるのか? 年が明けたいい機会なので、そんなことを話してみたい。

「サブリミナル効果」と聞いて多くの人が想い出すのは「コカ・コーラの実験」だろう。なんとなく最近の実験のように思っているかもしれないが、行われたのは60年以上も前、1957年である。

実験された場所は、アメリカ・ニュージャージー州フォートリーのドライブインシアター。
実験者は、広告業者のジェイムズ・ヴィカリー(James Vicary)。

実験内容は、きっとご存知だと思うが、上映中の『ピクニック』という映画に1/3000秒という知覚できない早さで、

「コカ・コーラを飲め(Drink Coke)」

「ポップコーンを食べろ(Eat Popcorn)」

という2つのメッセージを5秒ごとに表示。その後、売店でのコカ・コーラやポップコーンの売上をチェックし、実験前と6週間に渡って比較した。その結果。

ポップコーンの売上:57.5%アップ
コカ・コーラの売上:18.1%アップ

という驚くべき数字が出たのだ。

(ここで私的な感想。ご覧いただいた通りコカ・コーラの伸びはポップコーンに比べると1/3以下だ。だから本当なら「ポップコーンの実験」と呼ばれるべきなのに、「コカ・コーラの実験」と呼ばれていることに「仕掛け臭さ」を感じるのは勘ぐり過ぎというものだろうか…)

 

サブリミナル効果の意味と信憑性

 
「コカ・コーラの実験」を成功させたヴィカリーは有頂天だった。この手法を用いた「サブリミナル広告」がテレビCMに取って代わり、世界を席巻すると思ったからだ。

ところが人々はヴィカリーの思惑とは正反対に大反発。人を洗脳する魔法だとして「サブリミナル広告」に大いなる反感を抱いた。

さらに「それ、本当なの?」とも疑われ、アメリカ広告調査機構が実験内容と結果についての論文を出せとヴィカリーに要請。けれど出さなかったため、翌年2月、カナダのCBCが自身の番組「クローズアップ」でヴィカリーの会社に再実験をさせた。それは以下のような内容だった。

実験内容
番組内で「今すぐお電話を(telephone now)」というサブリミナルメッセージを352回表示。

実験結果
電話をかけてきた人、ゼロ。

さらにいうなら、放送中に「何か感じたことがあったら手紙をください」と視聴者に呼びかけ500通以上の手紙が届いたが、その中に「電話をかけたくなった」というものは一通もなかった。

そして、1962年。ついにヴィカリーは、「サブリミナル広告」はペテンで破綻しそうな自分の会社を救済するためにでっちあげた、と認めたという。どころか、新潟大学の鈴木光太郎教授は、この実験そのものがなかったとさえ言っている。「サブリミナル効果」の信憑性は地に落ちたわけである。

 

にも関わらず。

「サブリミナル効果」に対する疑いや噂は跡を絶たない。

 

たとえば、「ディズニーは、セックスに関するサブリミナルメッセージを映画に忍び込ませている」というヤツ。

『ライオンキング』で魔法の粉が空中に描き出した文字が「SEX」だとか、『リトルマーメイド』に出てくる城の一部分が男性器になっているとか、司祭は勃起しているとか、『ロジャーラビット』のヒロイン、ジェシカ・ラビットはノーパンだとか…

もちろんディズニーは「違いますよ」と言っている。「SEX」ではなく「SFX」です。男性器に見えるのは偶然です。勃起しているようなのはヒザの見間違いです。ただノーパンだけは本当なので修正しました、と。

考えてみれば「そりゃそうだ」という話だが、なのに「サブリミナル」として騒がれるのはなぜだろう?

テレビにおけるサブリミナル的表現方法は、アメリカでもイギリスでもカナダでも禁止されている。日本でも1995年にNHKが、1999年には日本民間放送連盟が禁止を明文化している。

 

にも関わらず。

アメリカでは、「広告を出す企業は、サブリミナルで自分を操作しようとしている」と信じている人が全体の62%にものぼる、という調査結果もあるという。

なぜ「サブリミナル効果」は否定されても、否定されても、騒がれるのだろう?

 

その理由。
本当は「サブリミナル効果」の力があるからだ。

少なくとも僕はそう信じている。
信じるに足る実験結果だってある。

イギリスのランカスター大学で、6歳から12歳の子供を対象に行われた次のような実験である。

  1. 子供たちをAとB、2つのグループにわける
  2. それぞれ教室でテレビを見せる
  3. その中で映画『ホームアローン』の映像が2分ほど流れる。
    Aグループ:家族がペプシを飲みながら夕食を食べているシーン
    Bグループ:ペプシではなく牛乳を飲んでいるよく似たシーン
  4. テレビが終わったら質問をするために1人ずつ別室に呼ぶ
  5. 別室に入った子に「コカ・コーラかペプシか好きな方を飲んでいいよ」と薦める
  6. 子供がどちらかを選ぶ
  7. 質問をはじめる

実験結果
ペプシを選んだ確率
Aグループ:62%
Bグループ:42%

見事に数字に現われている。ペプシを見たことを覚えているかどうかは実験結果に影響しなかったことから、「サブリミナル効果」が実証された実験と言っていいだろう。

それって「サブリミナル」じゃないんじゃないの?

いまの「ホームアローンの実験」の話を読んで、

 

何某

いやいや、それって『ホームアローン』をガッツリ見てるじゃん。だったら「サブリミナル効果」じゃなくね?

と思われたかもしれない。というか、はじめてのこの実験を知ったとき、僕は思った。

 

だから今日の最後は、ちょっとややこしい話。

「サブリミナル」という言葉の定義についてだ。

「サブリミナル(subliminal)」は「sub(下)」と「liminal(閾)」を合成した言葉であり、「閾下(いきか)」でのことだ。「閾」とは、ある知覚対象が提示されたときに、それを感じられるかどうかの境を意味する。つまり、視覚でも聴覚でも味覚でも嗅覚でも触覚でもいいのだが「人間が五感のどれかで感じられるぎりぎりのところ」という意味である。

「閾下」であるサブリミナルは、だから「人間が感じられない部分」のことだ。そして、人が知覚できないほどの小さい刺激を「サブリミナル刺激」と呼ぶ。

「コカ・コーラの実験」で使われたのは「視覚の認知に上らない」という「サブリミナル刺激」で、心理学では「サブリミナル刺激投射法」と言われている。そして、「サブリミナル刺激投射法」によって引き起こされる効果を「サブリミナル効果」と呼ぶのである。

 

ということは?

「ホームアローンの実験はサブリミナル効果にはあたらない」

言葉の定義上は、そうである。

 

本当に正確に言うのであれば、「ホームアローンの実験」のように十分に知覚できる長さの刺激によって引き起こされる効果は「サブリミナル効果」ではなく、「スプラリミナル効果」と呼ばれものだ。

 

しかし実際には、「意識に上らないような刺激を対象人物の無意識に入れることにより、こちらの望む反応や行動を引き起こすこと」を「サブリミナル効果」といっているケースは多々ある。

「見えた」とか「聞こえた」とかの自覚がない、いわゆる「意識にのぼってない」状態であれば「サブリミナル効果」だとする研究者もいるので、「サブリミナル効果」と「スプラリミナル効果」の線引きはとてもアイマイな状況というのが実情だ。

 

ただこれではこの先の話に混乱が生じるので、このブログでは「サブリミナル」の線引きラインを「知覚」ではなく「意識」とし、「スプラリミナル効果」を含んだものをすべて「サブリミナル効果」と呼ぶ。

その上で(今回はかなり能書き臭い話になってしまったが)、次回は「サブリミナル効果」の有効性について語っていこうと思う。

この文章では一切の「サブリミナル効果」を使っていないので、安心して次も読んで欲しい。

追伸
「文章では」と書いたのには意味がある。イラストには「サブリミナル効果」的なものが分かりやすく入っている。見落としてしまったのなら、もう一度見て欲しい。

 

 

illustration たかみまさひろ

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