雑記(あるいは語りたい話)

言いわけなく。彼らの死は僕のせいだ。

いまから22年前。

猿がいた。

僕が新しくオープンした店のショーウィンドウに。

ブラジルが故郷だけど日本生まれの、フリップって名前のメスのコモンマーモセット。

そこにオスがやってきて僕はダンスと名付け、すぐにレンチとパンチって子供が生まれた。残念ながらパンチは死産だったけどレンチは順調に育ってくれて、彼ら親子は仲良しで、人気者だった。

彼らの顔を毎日見に来てくれる人たちがたくさんいて、大好きなバナナがガンガン差し入れられて、彼らは確かに街の人気者だった。

 

僕も。

はじめて出した店は想像以上にイバラの道で、オープン前に描いていた甘く楽しい夢は文字通り夢で、実際の毎日には嫌なことや苦しいことが山ほどあったけど、お客さんのいない時間に彼らに話しかけてるとあたたかな気持ちになって、ヨシ頑張ろうって。

助けられてた、彼らに、相当。

けれど僕の経営者としての不甲斐なさでその店閉めることになって、彼らを育てられる環境がなくなって、どうしようってときにその店の店長が「家で育てます」って言ってくれて。彼らは僕の元から離れていった。

 

時は流れて。15年前。

色んな縁に恵まれ、素晴らしい立地の一階にもう一度路面店が出せることになり、フリップとダンスとレンチをやっと復帰させられると、僕は張りきって店の中に彼らの小屋を造った。

 

自分勝手?

まさに、そう。

店が閉まったときは店長に押しつけたくせに、いざ開店となるといい宣伝だとか、集客に一役買うとか、そんなことばかり考えて彼らを店に連れてきた。

 

だけど彼らは文句を言えない。

やってきたよ、彼ら。

その店のオープンと同時に親子揃って引っ越してきた。それで思惑通り格好の宣伝として店に人を呼び込んでくれ、11月終わりにオープンした店は盛況のまま正月休みに入った。

 

さてその休みの間、といっても正月三が日だけだが、「誰が彼らの面倒をみる?」ってそんなくだらないことで揉めたんだ。

別に僕がやればよかった話。当時僕はそこから自転車で10分もかからない場所で別の店もやっていて別の店は元旦から営業していたのだから、ちょっと自転車で走っていってメシやって掃除するくらいはなんでもなかったのに。

でも自分のことしか考えられなかった僕は、その店で育てていて、その店が彼らの恩恵に預かっている以上、その店のスタッフが面倒みるべきだと主張した。

ところがその店のスタッフはもう三が日にそれぞれの都合を入れていて、でも僕は頑なに主張を曲げなくて、結果彼らは休みの間だけ元いた店長の家に戻ることになって。

 

そして、

1月3日……

 

僕が正月の酒におぼれている間に。

連れて帰った店長が、店の小屋に紫外線が足りなかったせいでちょっと弱っていた彼らを日光にあてようとゲージごと外に出してきて、彼が深夜帰宅したとき、彼らは、寒くて、寒くて、寒くて、親子身を寄せあい小さく丸まって、絶命していた。

 

 

 

僕だ。

 

僕が自分の都合ばかり考えたから。

 

「客寄せになる」とか「面倒くさい」とか「金儲けたい」とかそんなことばかりを考えていたから。だから彼らを死なせてしまった。

 

言いわけなく。

 

彼らの死は僕のせいだ。

 

 

 

—————————————————————————————————————–

 

暖かな日が差す今日の午前中
僕は彼らが眠る長楽寺へ行き

お寺にはいり
合同慰霊碑である
動物守護観世音菩薩さま
地蔵菩薩さまに手を合わせ

この一年のことを
フリップとダンスとレンチを報告

親子仲良く
彼方で暮らしていることを祈り

お参りのあとには
毎年客殿で振るまわれる甘酒をいただき

いただきながら
僕は僕に問いかけた

 

僕のこの一年は
フリップとダンスとレンチに報告して
恥ずかしくないものだったか?

傲慢になっていないか?
意固地になっていないか?
独りよがりになっていないか?

 

僕は毎年1月3日
そのお寺の客殿で
甘酒をいただきながらそう自問し
毎年決意を新たにする

そして毎年思う
まだ全然足りない

恥ずかしいくらいに
全然足りない

だから今年も
僕は全速力で走る

フリップとダンスとレンチ
途中でサボらないよう
そっちから見ててな

 

 

(在りし日のフリップ)

illustration たかみまさひろ

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