数年前まで“Candyman” という名でメンタリストをやっていた。
怪談の中にメンタリズムを入れていく「怪談メンタリスト」というキワモノだったが、メンタリストであることに違いはない。
その僕だから聞ける質問。
メンタリズムで人の心は読めると思う?
答え。
読める。
だって、メンタリズムにはトリックがあるんだから。
僕のメンタリズムの師匠はこう言い切っている。
「メンタリズムはマジックの一つのジャンル、メンタルマジックと言われているものである。マジックにはトリックがある。つまりメンタリズムにもトリックがある」
そう、メンタリズムにはトリックがあるのだ。
ハンドパワーと言いつつ演じていたすべてが実はハンドパワーではないように、メンタリズムのすべてが実は心を読んでいるわけではない。
慶応大学出身のメンタリストが、トランプを使ったゲームで「人の心を読む」とか言って連戦連勝しているテレビ番組があるが、
そんなこと、できるわけない。
連戦連勝できるだけのトリックがある上で、「人の心を読む」要素をフリカケているだけだ。
人の心の動きを使って、平均単価をあげる方法
たしかに人の心には一定の動き方がある。
たとえば、「極端性回避の法則」。人はいくつかのグレードの中から選ぶ場面では一番安いものと一番高いものを避け、真ん中を選ぶ傾向が強い、という法則だ。
松竹梅の3つの選択肢がある場合は「竹」を選ぶ人が多いことから「松竹梅理論」とも呼ばれており、行動経済学では「妥協効果」とも言われている。
この法則はかなり強く作用する。
だから僕はビジネス心理コンサルタントとして、単価アップを狙っている飲食店さんにビジネス上のアドバイスをする際には、「一食も売れなくてもいいから、高いメニューを作ってください」と必ず言う。
いや、具体例の方が分かりやすいな。
ある飲食店で実際に行なった事例を、扱っている食材や価格だけ変えて紹介しよう。
駅前にある蕎麦屋。
席数30席ほどで、ランチ時は2回転する。蕎麦と小丼のセットを650円で出していて一番人気。ほとんどの客がこれを頼むので単価が上がらず、忙しい割に昼の売上は4万円ほどだ。
ランチで売上5万円は欲しいので、単価を850円まで上げたい、というのが相談内容だった。僕からのアドバイスは以下の3点。
650円のセットをやめて、1200円と850円と600円の3つの価格でセットを作ってください
1200円は国産松茸の土瓶蒸しとか、関アジのお刺身とか、季節の旬の食材、それも一番の食材を使って、10食限定とかで出してください
600円は、たとえば蕎麦と半カレーのセットとか、とにかく手間のかからないもの1つにしてください
店主は650円をやめることで客足が遠のくことを心配されたが、それを避ける方法をお伝えしつつ、実行してもらった結果。
平均単価 880円
回転数 2.3回転
平均売上 6万円
「極端性回避の法則」が見事に働いて、蕎麦屋の店主は望む結果を手に入れることができたわけである。
つまり、人の心の動きには法則があるのだ。
人がフラットな心の状態であれば、こうした法則はた実に使える。たとえば蕎麦屋に来るお客さんは「腹減ったな」とか「なに食べよう」と考えている、フラットな心の状態であることがほとんどだから、「人の心の動き」に則ってビジネスを組み立てれば望む結果を得ることはできる。
だが、トランプのゲームは別だ。「騙してやろう」という気持ちが動き、心の中はフラットではない。「極端性回避の法則」の法則にしても、逆にそれを使って「騙してやろう」としてくる可能性もある。そんな人の心の中を完全に読み切ることはほぼ不可能だ。もしトリックなしで100%読み切れるなら、麻雀でもポーカーでも負けることはないだろう。
それを100%当てるためにはトリックが必要なのだ。
トリックがあるのがメンタリズムなのだ。
そのことを具体的に動画でお見せしよう。
ということで。
僕が伝えているのは、トリックのない「心理誘導」であり「マインドリーディング」である。
その僕がトリックのある「メンタリズム」をしてしまうと、僕のすべてが嘘クサくなってしまう、と僕は思ったからメンタリストとしての活動は休止している。
決してメンタリズムが嫌いになったわけではない。メンタリズムは素晴らしい。いつか「怪談メンタリスト」として怖くて恐い世界をお見せしたいと思い続けている。
つまりこの文章は、”Candyman”への未練と憧憬を込めたレクイエムなのである。
illustration たかみまさひろ