これまで繰り返し語ってきたことではあるが、マインドリーディングで相手の心の中を100%読むことは不可能である。しかし、メンタリズムならできる。だってトリックがあるからね。
メンタリストが使うトリックには色々あるが、中でも力を発揮するのがマルチプルアウトだ。
マルチプルアウトとは、直訳すると 「いかように出来る逃げ道」。
占い師やサイキックが使う場合には、「どのようにも言える曖昧な表現を使って、あとから話を軌道修正して自分に都合の良い解釈をする話術」をいうが、マジシャンが使うマルチプルアウトは、もっと確実な100%「いかように出来る逃げ道」である。
マジシャンのマルチプルアウトアウトを効果的に使うと、限りなく不思議な(完全に相手の心の中を読み切るという)現象を起こすことができる。今回はその詳細な方法や応用例について紹介する。
魔術師のマルチプルアウト
僕がマルチプルアウトに出会ったのは相当に古く、中学校の頃に夢中になってみた「刑事コロンボ」。1976年に放映された第36話「魔術師の幻想」の中で使われていたのだ。
「刑事コロンボ」についての説明は要らないと思うが(分からない人は「古畑任三郎」の元ネタだと考えて欲しい。「古畑任三郎」も知らない人は自力でなんとかしてくれ)、そのときの犯人が魔術師でマルチプルアウトを使っていたのである。
話としてはこんな具合。
魔術師サンティーニの公演は毎晩盛況を博していた。しかしサンティーニは公演中のクラブのオーナー、ジェロームに弱みを握られており、収入の半分を搾取されていた。支払いを拒絶するサンティーニをジェロームがあざ笑ったその夜、サンティーニはジェロームを射殺する…
コロンボとしては王道の殺人動機である。
ここからコロンボはお決まりのやり方で、犯人であるサンティーニを追いつめていくのであるが、その中でコロンボと同僚の警官とのこんな掛け合いがある。
1から4までの数字でひとつ好きなのを決めな
決めました
いくつだ?
2です
そこでコロンボは
電話機を指差してこう言うのだ。
電話の下を見てごらん
相手が電話機を上げると張り紙がついている
読んでみると、まちがいなくコロンボの筆跡で
「君が2を選ぶことはわかっていた」と書いてある
同僚は驚いてこう言う。
どうして分かったんです?! 予知能力があるんですか?!!!
どうして分かったんだ!
と、中学生の僕も同じように驚いた。どうして分かったのか全然分からなかった。もっと言うなら「コロンボなら予知能力があってもおかしくないな」と思ったくらいである。
けれど。この予知能力にはトリックがあった。100%当てられるトリックだ。それは以下の動画を見ていただいた方ならもうお分かりだろう。
そう!
- 「君が1を選ぶことはわかっていた」
- 「君が2を選ぶことはわかっていた」
- 「君が3を選ぶことはわかっていた」
- 「君が4を選ぶことはわかっていた」
それぞれそう書いた紙を、部屋のあちこちに隠しておけばいい。そうして準備をしておいて、相手が行った数字の隠してある場所を堂々と言えばいいのだ。
マルチプルアウトを使ってみよう!
このマルチプルアウトは、ビジネスにも恋愛にも応用が利く。
ビジネスでいうなら、たとえばプレゼンのとき最初に切り出す案とは別に色んなパターンの案を準備しておき、最初の案が却下されたら、その理由を聞いた後に
ですよね。実は最初からこの案は厳しいだろうな、と思いましたが、私的に魅力があったのでご提案した捨て案だったのです。本命の案はこれからご案内いたします
と言いつつ相手の意向に沿った案をプレゼンすればいい。
恋愛でいうなら、たとえば
今度一緒にご飯食べに行こうよ
と誘いつつ
実はあなたが何を食べたいか予想してみたんだ。なに食べたいか言ってみて
と、切り出してみる。もちろん服のあちこちには「あなたは和食を選ぶ」とか「あなたはイタリアンを選ぶ」と書かれた紙を仕込んでおく。
そして相手が答えたら
やっぱり!!!
とドヤ顔しつつ、仕込んだ紙を引っ張りだせばいい。
マルチプルアウトは単純なトリックであるが、堂々と行なえばバレることはない。上記で挙げた例の他にも応用範囲は広いので、あなたなりのアイデアでマルチプルアウトを試してみて欲しい。
くれぐれも悪用は厳禁で!