臨床の現場で長年うつ病と真っ正面から対峙している世界的リーダーの話を、4日間連続で勉強してきた。
先生は心理学およびヒプノセラピーの第一人者でアメリカ人だが、僕が海を渡ったわけではなく、東京で行われたセミナーに参加したのだ。
その4日間で、もっとも僕の心に突き刺さった先生の言葉が、これ。
「行動可能なステップのないゴールは、無意味である」
いや、マジ、響いた。
僕はコミュニケーションやマーケティングを伝える仕事をしているが、コミュニケーションにしてもマーケティングにしても、目の前の相手だったり見込み客だったりに、こちらが作った小さな階段を上がってもらえなければ「こちらの目的」は達成できない。つまり、そのステップを作ることができていなれば「こちらの目的」はまったくの無意味。
まさに、その通りだし、当たり前だし、はじめの一歩だ。
その当たり前のはじめの一歩を、先生が語ったあるひとつの事例で、強烈にあらためて思い直したので、備忘録も兼ねてここにおいて置く。
38歳の独身男性が抱えてきたもの
先生が語った事例。
ある日。重度うつ病ので苦しんでいる38歳の男性がやってきた。見た目も良く、収入も高く安定しており、性格的にも穏やかで、欠点がないように見える男性だ。ただ一点「15年前に2週間精神病院に入った」という事実を除いては。
男性の望みは「幸せな結婚生活を送ること」。しかしそれは叶わぬ夢だった。「精神病院に2週間も入った男は、交際相手や結婚相手として相応しくないと思われるに違いない」と強く信じ、それが故に「幸せな結婚生活」をあきらめ、人生に絶望していたからだ。
さて、あなたがその男性のセラピストだとしたら、何と声をかけるだろう?
僕は、こう考えた。
「男性が他と比べて劣っていない点(容姿や収入や性格)をひとつひとつ具体的に話して、相手に納得をしてもらう。それを少しづつ積んでいけば、男性は自分に自信をつけ、女性と交際できるようになるのではないか」
先生の答えはこうだった。
「それを聞いた男性はきっとこう言うでしょう。『あなたは僕にお上手さえ言っていれば、僕からお金をもらえる仕事だ。だからそういう僕が喜びそうなことを適当に言うんだ。僕はあなたの言葉を信じない』」
たしかに。と。僕は先生からこの言葉を聞いたときに、たしかに深いうつ状態で苦しんでいる人物であれば、そんな発想になるだろうと納得をした。
「では、先生、こういう言い方はどうでしょう」と僕はセカンドチャンスを狙ってみた。
「あなたは過去に好ましくない経験をした。しかし世の中は広い。女性は多い(35億人にいる!)。あなたの過去をまったく気にしない女性だって必ずいる。大事なのはあなた自身が過去を恥じず、いまをしっかり生きることだ」
先生の答えはこうだった。
「それを聞いた男性はきっとこう言うでしょう。『あなたは神なのか? 世界中の女性の心の中が読めるのか? あなたが世界中の女性の心の中が読める神だというなら、いまここで奇跡を見せてくれ!』」
そこまでなのか! うつという病はそこまで人の心を蝕むものなのかと僕はこの先生の言葉を聞いて思い、身震いをし、完全に白旗をあげ、先生が行ったセッションの内容を教えてもらった。
先生の出した宿題とは?
「次回のセッションまでに『女性と話す機会があったら聞いてみたい9つの質問』を、紙に書いて持ってくること」
先生が初回のセッションで男性に話したのは、たったこれだけの宿題だった。
質問を紙に書くくらいなら、重いうつ病の男性でも行動できる。次のセッションの時、男性はしっかりと宿題を書いて持ってきた。その9つの質問をサッと眺めた先生は、10個目の質問としてこう付け加えた。
「15年前に2週間精神病院に入った男性がいるとして、その男性と付き合ったり結婚するのは考えられないことですか?」
そして白衣を持ち出し男性に渡しつつ「これから近所のショッピングセンターに行き、リサーチャーですと言って女性に声をかけ、この10個の質問に答えてもらいなさい」と、次の宿題を出したのだ。
もちろん見知らぬ女性に声をかけるのは、男性にとっては高いハードルだ。しかし、女性が最後の質問にどのように答えるのか、強い好奇心を持ってしまった男性は勇気を出し、白衣を着てショッピングセンターに行き、女性に声をかけ始めた。そしてアンケートの答えを見る度、驚きを大きくしていった…
理由は、いうまでもないだろう。
ほぼ全員が10個目の質問に対して「気にしないわ」と答えたからだ。気にしないどころか多くの女性がこんな質問を付け加えたと、男性は笑って報告した。
Is he rich?
そのときの男性は、自信に満ちていたという。
「行動だけが人生を変える」
僕は、僕の人生を変える行動を毎日続けていこう思う。
あなたは、どうする?
illustration たかみまさひろ