サブリミナルの力

サブリミナル効果は性的がお好き

今回は、視覚を刺激するサブリミナル効果の話をしてみたい。

広告業界が我々の潜在意識を操作している

これは、1970年代前半、カナダでジャーナリズムを教えていたウィルソン・ブライアン・キイ教授が唱えた主張である。

ウィルソン・ブライアン・キイ教授って誰?

という方でも、ベストセラーになった「メディア・セックス」の著者というとピンとくるかも知れない。あるいはキイ教授の他の二冊、「メディア・レイプ」や「潜在意識の誘惑」をご存知のこともあるだろう。

いずれにしてもキイ教授は、広告業界ではサブリミナル効果を使うのは当たり前で、サブリミナル効果を紛れ込ませることで購買意欲を高めている、と言っている。いや、言っているだけではなく、実際の広告での「証拠」を見せることで、人々の注目を集めたのだ。

有名なのは、アルコールの広告。ロックグラスに氷とジンが入っているその画像に、「SEX」という文字や男性器、女性器が書き込まれているという事例。キイ教授は1000人にこの広告を見せ調査をした。すると…

性的興奮を報告した人 62%

という結果が出たのだ。1000人対象の調査なので、性的に興奮したと答えた人が620人もいたことになる。この数字は素直にモノスゴイ。

この事例に象徴されるように、視覚刺激のサブリミナル効果というと「SEX」をはじめ「性的」が多い。それが証拠に「subliminal SEX」で画像検索をかけていただきたい。「SEX絡み」や「性的なもの」がザクザクでてくる。

 

なぜサブリミナル効果はこれほど性的なものが好きなのか?

キイ教授によると、「性」や「死」といった事柄は普段、無意識下に抑圧されている欲求だから、そこを刺激するのは見ている人の注意や記憶に与える無意識的なインパクトが大きい。だから広告への注目を集めたり、広告を忘れ難くする上において有効だという。

 

映画でもサブリミナル効果は多用されている

視覚刺激という点からすると、サブリミナル効果は映画でも使われている。

『エクソシスト』という映画をご存知だろうか?

少女に憑依した悪魔と神父の戦いを描いたオカルト映画で、あまりの怖さにパニックに陥った人が続出したと報じられた映画だが、『エクソシスト』にはサブリミナル効果が隠されている。

青白く唇の裂けた恐ろしい悪魔の顔を何ヶ所か、サブリミナル効果として挿入しているのだ(劇場版やディレクターズカットなどバージョンの違いで回数は異なるようだ)。

『エクソシスト』を撮ったウィリアム・フリードキン監督は、2012年におけたインタビューの中で「昔のVHSでは顔の出現ははっきりわからなかったのに、今はDVDをストップしてじっくり見ることができてしまう」と嘆いているので、意図してサブリミナル効果を使っていたことは明白である

また聴覚面でも、怒って興奮している蜂がたてる音や、屠殺されるときのブタの脅えた叫び声といった音を、我々が知覚できない周波数に変えてサウンドトラックに混入させ、不安や恐怖を煽り立てたというのだから、フリードキン監督、サブリミナル効果の素晴らしき使い手である。

 

余談だが、『エクソシスト』が日本で封切られらた1974年の夏、僕は小学校6年生で、すごく好きだった真弓ちゃんと初のデートでこの映画を見に行った。

単純に「キャー怖い」といって真弓ちゃんが抱きついてくれたらいいなという「お化け屋敷効果」を狙った作戦であったのだが、あまりの怖さに真弓ちゃん、途中で気持ちが悪くなり…(あとは想像通りの展開だ)。

あざとい作戦は失敗すると、

僕はこのとき学んだよ。

 

サブリミナル効果が大好きな日本の監督は?

サブリミナル効果を使った映画は日本にも存在する。

1994年に「映画生誕100年・江戸川乱歩生誕100周年・松竹創業100周年記念作品」と銘打って公開された、奥山和由監督バージョンの『RAMPO』である。

サブリミナル効果を強く信じていた奥山監督は、「出演者のデスマスク」や「女優の泣き顔」「ラブシーン」など数種類のサブリミナルカットを38カ所にわたって挿入したという。

「何が挿入されているのか事前に分かってはサブリミナル効果の意味がなくなってしまう」との理由で詳細は明らかにされていないが、奥山監督自身、サブリミナルカットを使っていることはハッキリ宣言しており、後にWOWOWが『RAMPO:奥山バージョン』を放送する際には、サブリミナル効果を狙った箇所をカットしている。

また『RAMPO:奥山バージョン』では、サブリミナル効果以外にも「1/fゆらぎ」という快適さを与えるリズムの音楽を流したり、映画館に専用の機械を導入してフェロモンの香りを発散させたりと、今までにない趣向が試されている。

これらも映画を見に来る人々が意識的に気づかない効果を狙ったいう意味においては、サブリミナル効果と言えるだろう。

『エクソシスト』と『RAMPO:奥山バージョン』、興味が湧いたら、できれば大画面で、サブリミナル効果を体感をして欲しい。

 

illustration たかみまさひろ

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