2009年1月、アメリカ。
ペプシコーラで知られる食品・飲料会社のペプシコが、自社で扱っているオレンジジュース『トロピカーナ』のパッケージを刷新した。円に換算して35億という莫大な予算をかけた綿密なリサーチの元、自信満々で敢行したリニューアルだ。
ところが、である。
新しいパッケージにした途端、「元のパッケージに戻せ」とのクレームででネットが炎上。非難の嵐は一ヶ月経っても続き、セールスも20%減少した。結果、わずか二ヶ月で元のパッケージに戻すことになってしまったのだ。
当然、担当者たちは納得がいかない。「あれだけしっかりとリサーチしたのになぜだ?」と訝り、イヤだと声を上げた人たちにその理由を尋ねた。
返ってきた答えは、
「なんとなくイヤ」
明確な理由などなにもない。ただ「なんとなく」新しいパッケージが気にくわなかっただけ、つまり、「なんとなく」が35億円を吹っ飛ばしたのである。
実は僕らの日常でも「なんとなく」は猛威を振るっている
いま紹介した「なんとなく」は、実は僕らの日常にも大きく影響している。
たとえばラフなビジネス交流会など気が置けない場面で、はじめて会った人に挨拶して少し話しただけの相手に「この人、いい人だな」と「なんとなく」感じたとしよう(こういう体験は誰にでも思い当たると思う)。
そのあと、お互いの仕事の話をしているうちに、その相手からこう言われた。
あなたのような方を探していたんです。今度、お客さん候補を紹介しますよ。よかったら携帯の番号を教えてください
あなたなら、どうする?
すでに「なんかいい人」と感じているから
本当ですか! ありがとうございます。これが私の番号です。ご無理のない範囲でどうぞよろしくお願いします
と、即答するのが普通だろう。
では逆に。
初対面の瞬間に「なんとなく苦手」と感じた相手だったら? その相手が同じように
あなたのような方を探していたんです。今度、お客さん候補を紹介しますよ。よかったら携帯の番号を教えてください
とあなたに言ったとしたら?
「嬉しい」よりも先に「胡散臭い」が出て、
それはありがとうございます。まずはそのお客さま候補の方に私の名刺をお渡しいただき、どんな些細なこともいいので連絡いただけるようお伝えください
などと、携帯番号を伝えるのを避けてしまうのではないだろうか。(少なくとも僕は「なんとなく」気が進まず、距離をとってしまう)。
同じように交流会で出会い、同じように話をし、同じようなオファーをもらったのにこの差が産まれる。「なんとなく」で感じた感覚の差でここまで違うのだ。
では一体、この「なんとなく」の正体は何なのか?
サブリミナルリンク、それは「相手の無意識に介入する方法」
「なんとなく」の正体は、「無意識の力」。
サブリミナルとは「無意識下の」という意味であるので、「無意識の力」とは即ち「サブリミナルの力」
行動経済学や脳科学の分野では、「無意識の力」は僕らの意思決定の95%を占めていると言われる。つまり僕らは「サブリミナル」のコントロール下で、文字通り「なんとなく」行動決定をしてしまうのだ。
ハーバード大学ビジネススクールの名誉教授にして、心脳研究所所長のジェラルド・ザルトマン氏は、こうも言っている。
「意識的活動は全体の5%しかなく、それも95%の無意識的活動によってもたらされた結果の自己解釈に過ぎない」
ひらたく言えば、ザルトマン教授は「ハッキリと意識して決める5%のことでさえ、『なんとなく』先に感じたことを後付けで解釈しているに過ぎない」と言っているのだ。
これは驚くべきことである。
だって、つまり、「人の行動に影響を与えるようとするならば、サブリミナルな介入が絶対条件」ということなのだから。
ところが世間に出回っている「心理術」や「会話術」の類いは、どうだろう。ほとんどが「意識」を相手にしたもの。たった5%の、「なんとなく」の後付け理論でしかない「意識」に働きかけることを前提としているのである。
これじゃ効くわけないよね。
もしあなたがこれまで色々な「心理術」や「会話術」のスキルを試したのにあまり効果が出ていないとしても、それはあなたのせいじゃない。あなたが学んだスキルが「無意識」を相手にしていなかったから効果が出なかったのである。
先ほどお伝えした通り「初対面の人と話すとき」や「人に何かをお願いするとき」には、どう話すか(スキル)やなにを話すか(内容)以前に、「なんとなく」が大きく影響する。
「なんとなくこの人話しにくいな」「この人のお願いは、なんか聞きたくないな」と先に思われたら、その後でどんなスキルでどのように語りかけても、効果は期待できない。と言うかむしろ、頑張れば頑張るほどマイナスになる可能性さえある。
逆に、最初に「なんとなく好き」を相手に与えることができれば、説明が多少わかりづらくても、不器用であっても、
「この人とまた会いたい」
「このから買って上げたい」
「この人に何かしてあげたい」
と思ってもらうことができるのだ。
僕がブログでお伝えしたいのは、これ。
相手の無意識(サブリミナル)に介入して絆を作り相手を動かす力、「サブリミナルリンク」。
- 「なんとなく好き」
- 「なんか気になる」
- 「なんか分からないけど一緒にいて心地いい」
- 「お願いされたら聞いてしまう」
- 「お願いされるのが逆に嬉しい」
このような状態を意識的に創り上げるため、僕自身がこれまでに学んできた、心理学、エニアグラム、エリクソン催眠、コールドリーディング、マインドリーディング、メンタリズムなどをベースに編みあげた「サブリミナルリンク」を紹介していく。
どれも実践的なコミュニケーションスキルなので、たのしみに読んで欲しい。
2017年にノーベル経済学賞を取ったリチャード・セイラー教授が行なった「サブリミナルリンク」の実験がこちら。
illustration たかみまさひろ