心理スキルを日常生活に使うべく日々研鑽を重ねる博士と助手の元に、今日も一通のお便りが届いたようだ……
助手君、大変言いにくいのじゃが…
何ですか、博士、改まって
実はこの研究所なんじゃが
まさか閉鎖とか!
いや、やはりいい、忘れてくれ
そんな、そこまで言ってやめないでください!
いやけれど、皆さんお待ちじゃ。まず先に、お便りじゃろう
博士ぇ〜
心理学を信じたら、とんでもない結果になりました!
心理学に感謝(27才 / 女性 / 会社員)
もてもての先輩との初めてのデート。
私、どちらかというと顔がキツイから「クール」って思われがちなのですが、実は超奥手で、自分で言うのはあれですが、大和撫子タイプです。
その先輩とのデートも、あれこれ画策をして、やっとのことで実現したので、とてもたのしみにしていました。
デート当日、いいお天気に恵まれて、まずは先輩の趣味っていうアーチェリーを教えてもらいました。力が必要だけど、とても面白くて。
それから近くのショッピングモールに行って二人でブラブラ。先輩と一緒だと行き慣れてるはずのモールが、素敵な場所に見えてくるから不思議です。
そしてディナー。素敵なイタリアンに連れていってもらいました。感覚的には1時間もいないような感じがしていたのに、時計を見たら2時間以上経っててビックリ。
レストランを出て、酔いさましに近くにある公園に行って、ベンチに座って、今日のお礼を言っていたら「もう一件飲みに行こう!」って先輩。
「よしきた!」って思ったのですが「門限があるので、もう一軒は無理なんです。今日は楽しかったです。ありがとうございます。失礼します!」とさわやかにお別れした私。
なぜって、恋愛心理学の本に「いきなり中断された記憶のほうが、十分に完結した記憶よりもいつまでも人の頭に強く残りやすい。はじめてのデートは終わり方が一番大切!」って書いてあったので、その通りにしてみたのです。
そうしたら5分後に、「こちらこそありがとう。っていうか、君のことがとても気になっている。こんな気持ちは初めてだ。また近いうちに会って欲しい」って! 嬉しいことに、予想をはるかに超えるとんでもない大成功!!!
それがきっかけで、いま私たちはつきあっています。周りの子たちからの嫉妬の目線がかなり痛いほどの、ラブラブで、いまとても幸せです。心理学ってスゴイですね!!!
うむ、心理学はスゴイのじゃよ
ツァイガルニク効果ですね
そうじゃ、ザイガルニック効果とも呼ばれておる
いま私もツァイガルニク効果にやられています
研究所の話か。それはな…
はい、なんでしょう
の前に、シンデレラの話をさせてもらうかの
博士ぇ〜
恋愛におけるツァイガルニク効果の圧倒的な成功例
人間は完全なものよりも、不完全なものに対して興味を持つ傾向があり、これをツァイガルニク効果 / ザイガルニック効果と呼びます。
人間誰しも避けれない心の動きなので、物語やドラマなどでは多用されています。一番有名で、一番効果的に使っているのは、シンデレラ。
なにせ王子様の気持ちが最高に盛りがったとき、鐘の音と共に忽然と消えてしまうのですから! 王子様の「未完成感」は半端なかったでしょうし、だから事実、王子様は血眼になってシンデレラを探しました。
この動画、2分11秒でツァイガルニク効果の力を見ることができますので、ぜひご覧ください!
<注意>
同じシンデレラでも「シンデレラ・コンプレックス」と混同しないでください。「シンデレラ・コンプレックス」とは「いつか素敵な王子様が現れて私を幸せにしてくれる」という幻想に取りつかれ、誰かがいまの境遇から救い出してくれるのをひたすら待っている女性の深層心理をいいます。
最近では、シンデレラも随分派手になったのぉ
映像技術の進歩は素晴らしいですから
それに比べ、わしの研究所の技術の進歩はどうじゃ
世界のW.D社と比べるのは……
そんな考え方だから研究所は…いや、やめておこう
博士ぇ〜
ツァイガルニク効果はベルリンの食堂で生まれました
心理学者たちの間の伝説によれば、ツァイガルニク効果 / ザイガルニック効果の発端は1920年代半ば、ベルリン大学近くでの昼食の席だった、と言われています。それはこんなお話です。
大学関係者がおおぜいでレストランへ行き、1人のウェイターに注文をしたが、そのウェイターは何も書き留めなかった、ただうなずいただけだ。それなのに彼は全員の注文を正確に給仕し、その記憶力に全員が舌を巻いた。
食べ終わって店を出ると、そのうちの1人が(伝説でははっきり誰とはわからない)忘れ物をしたことに気づき、それを取りに店に戻った。
さっきのウェイターを見つけて、彼のすばらしい記憶力が助けになってくれるのではないかと期待しながら用件を告げた。
ところがウェイターは、ぽかんとするばかりだ。彼は戻ってきた男が誰なのか、どこに座っているのかさえ忘れていた。すべてをそれほどすばやく忘れてしまうものか尋ねると、彼は注文をおぼえているのは給仕が終わるまでなのだと説明した。
「WILLPOWER 意志力の科学」より
その中にブルーマ・ザイガルニックという若いロシア人の心理学科の学生と、その指導者であるレヴィンがいました。そして、彼らがこの事実に興味をもちました。
彼らはウェイターの行動を見て「人間の記憶は仕事を終える前とあとでは大きく違っているのではないか」と予測と立て、研究を開始。そして、「終わっていない仕事や達成されていない目標は、頭に浮かびがち」という現象を見出したのです。
逆に仕事が完成して目標が達成されると、頭にそれが何度も浮かんでくることはなくなるそうで、だからウェイターは仕事を終えると、キレイにすべてを忘れてしまったのだと結論づけられました。
ツァイガルニク効果についてはよくわかりましたので
だから、なんじゃ
もうそろそろ、教えてください
いいじゃろ。残念じゃが、この研究所は
はい
お!
お?(しまい???)
お腹が痛い…
まさか、ここで、トイレとか言わないでくださいよ
なんと!先を読んだな、このマインドリーダーめ!
(といいつつトイレに消える)
博士のツァイガルニク効果にまつわる告白
皆さんだけに明かすのじゃが、恥ずかしい話、このところ、排尿後に、尿が出きっていない感じやまだ残っているという感じがあるのじゃ。
これ、決して気持ちのいいものではない。
じゃがな、この「未完成感」こそが「ツァイガルニク効果 / ザイガルニック効果」であると、わしは思っておるし、研究者として、この体感覚を大切にせねばならんとも思っておる。
たとえばこの実験じゃ。
ルーマ・ザイガルニックとその指導者であるレヴィンは、被験者にジグソーパズルをしてもらって、途中で邪魔が入るとどうなるかという実験を始めた。
この実験はその後何十年にもわたって行なわれ、邪魔が入れば入るほど、興味を持つという結果におわる。
のちに「ザイガルニック効果」と呼ばれる現象が確認された。終わっていない仕事や達成されていない目標は、頭に浮かびがちだという現象だ。
逆に仕事が完成して目標が達成されると、現象はストップする。
「WILLPOWER 意志力の科学」より
邪魔が入れば入るほど、ジグソーパズルに興味を持ったように、残尿感が残れば残るほど、排尿に興味を持つ。これはいまわしが身をもって体験しておる。
そして、このウズウズした感覚を助手君にも身体で覚えて欲しいのじゃ。わしがいま研究所の話を焦らして話していないのはそのためじゃ。
え?
なにがあるか先に聞きたいとな。なに大したことない、「研究所は大晦日もやるぞい!」と、それだけのことじゃ。
さて、残尿感もいくぶん和らいだし、助手君の元に帰るかの。
おかえりなさい
うむ、で、どうじゃ?
どう、とはどういうことでしょう?
いや、研究所のことじゃ
あ、それはもういいです
なに! いいのか! この研究所はお…
博士、本当にそのことはもう大丈夫です
なんじゃ、その言い方は! 君は研究所の行く末が気にならんのか!
それより博士、差し出がましいですが、一度病院へ行ってください
なんのことじゃ?
あの、博士の、排尿後の、違和感のことです
な、な、な、なぜ、わしの秘密を知っておる! 君は本物のマインドリーダーか!
違います。博士いま、研究で使うトイレに行かれましたよね
そうじゃが、それがどうした、って、ああああ、しまったわい!
はい、あそこはスピーカーフォンついてますから
聞こえてしまっていたというわけか…(ガッカリ)
私のことそこまで考えていただきありがとうございます。もちろん、大晦日も正月も働きますから!
(よし、これで年末年始も寂しくないぞ)
ツァイガルニク効果のまとめ
- 人間は完全なものよりも、不完全なものに対して興味を持つ傾向がある。これを心理学で「ツァイガルニク効果 / ザイガルニック効果 」という。
- 完成してしまったものに対しては興味が失われる傾向にあるため、あまりにすべてをさらけだすと失敗することもある。
- 終わっていない仕事や達成されていない目標は頭に浮かびがち、終わった目標が何度も頭に浮かぶことは少ない。
- スポーツや恋愛、販売、人間関係などではこの効果をうまく使いこなせば目的達成に一歩近づく。
- ツァイガルニク効果の使い過ぎには注意し、「ここ一番」でのみ使うことを心がける。