「先生踏切」
という実話怪談がある
怪談と言っても
怖い要素はほとんどないし
どちらかというと心温まる話なので
苦手な人も安心して読み進めてほしい
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この話を聞かせてくれたのは
仕事で出会った30代の男性で
彼が小学校の低学年だった頃の話だ
仮に名前を
岡本君としておこう
話の舞台は
岡本君の故郷である山陰地方の農村部
事件が起った日は
夏休み前の最後の登校日で
岡本君は明日から始まる夏本番に
すでにワクワク心躍らせていたという
ザワザワと落ち着かない教室の中
その年に着任したばかりの
若い男の担任が声を上げた
「明日から夏休みです
安全のしおりをよく読んで
病気や怪我などしないよう
たのしい休みを過ごしてください」
「先生こそちゃんと食べて
たのしいお休みを過ごしなよ」
線が細く
頼りない感じしかしない担任に
委員長をしているオマセなK子が声をかけた
「じゃあ、おまえが作りに行ってやれよ」
「ヒューヒュー、あついねぇ」
イタズラ男子が混ぜっ返し
教室のざわめきはさらに大きくなる
そんな中
担任は子供たちに背を向け
黒板にこんな図を書いた
振り向いて沈黙
あまりに長い沈黙
その沈黙に
異様な力を感じたのか
教室からざわめきが消えていく
静まり返った教室に
担任がそっと言葉を吐き出した
「これは無限大をあらわすマークです
つまり君たちのマークです
君たちの可能性は無限大です
自分の可能性を信じて
まっすぐに生きていってください
これが先生の最後の授業です」
そう言うと
担任は教室から走り出た
岡本君には
出て行くときの担任が
泣いているように見えたらしい……
その晩
担任は自らの命を断つ
夏休みの初日が
担任の通夜となった
これからたのしい夏休みが始まるのに
なにもその前日に死ななくても……
担任とは重ねた日々が少なかったこともあり
夏休みの出鼻をくじかれた岡本君は
そんな苦々しい想いを抱きながら
黒い服に身を包み通夜の列に並んだという
それでも
祭壇に飾られた担任の遺影を見て
前の人を真似て焼香するうちに
涙が込み上げてくる
ハンカチを出し
涙を拭いていると
噂話をしている親達の声が切れ切れに聞こえてきた
「飛び込み自殺」
「踏切から電車に……」
「全身バラバラ」
「頭が転がり……」
「目玉は見つからなかった」
ひぃ
怖いことがなにより苦手な岡本君は
耳を塞いで逃げ出したくなった
「なぁその踏切に行ってみようぜ」
そのとき
クラスの誰かが言い出した
いいにしろ悪いにしろ
団結力がありノリのいいクラスだ
その場にいた全員で
件の踏切に行くことになった
夜の帳はすっかり降りて
田舎道は漆黒に包まれている
その中を
踏切目指して歩く
黒装束の小学生
すでにこの絵面がホラーだな
岡本君はそんなことを考えながら
集団の中ほどを歩いていた
しばらくすると
踏切がボンヤリと見えてくる
「おい、あそこ、何か、光ってるぞ」
集団の先頭の誰かが言った
ホタルの季節ではないし
人影は見当たらないから懐中電灯でもない
「先生の亡霊だ」
「化けて出たのか?」
「呪われるぞ!」
「逃げろ!!!」
「逃げろ!!!!!」
「逃げろ〜!!!!!!!!」
徐々に声は大きくなり
最後には叫び声になり
もう怖くてたまらなくなった岡本君は
一目散に逃げ出そうとする
「待って、違う、違うよ!」
そんな中
委員長のK子の声が響いた
「見て、あの光。絵を描いてるよ」
怖い怖い怖い
でも見なくちゃいけない
目に見えない
なにかの力に操られるように
岡本君はじめ全員が
踏切に近づいていったという
確かに
光は絵を描いていた
こんな風に
「先生よ
先生だわ
この踏切は
よく事故が起きる危険な場所だから
先生が私たちに注意をしてくれてるのよ」
涙でグチャグチャになりながら叫んだK子の言葉に
全員が深く頷いた
それ以来その踏切は
「先生踏切」
と呼ばれるようになった……
は?
そんなバカな!
と
この怪談を聞いた
10年くらい前の僕は憤慨した
こんな話が
あるはずないだろ?
だってそうではないか
死を選ぶほどの悩みを抱えているのに
最後のときに他人を慮るなど
あり得ない!
自分に死をもたらした原因に
恨みやつらみを重ねて当然だし
そこで他人のことを気にするなど
どう考えたってあり得ない!!!
実話怪談と言っているが
作り物の話に違いない
そう10年前の僕は思ったのだ
ところが
である
この怪談は実話だった
あり得なくなかった
あれから10年以上が経過し
来年1月に54歳になる僕は
担任の想いは至極当然だ
と
強く想うようになったのだ
死ぬからね
僕の歳になると
突然の病気で死ぬからね
50歳を超えてから
仲のいい同級生が
立て続けに病気で逝ったし
僕にしても
身体のアチコチがガタガタで
無理は完全に効かなくなったし
そんなに遠くない将来
死ぬんだな
と
嫌な感じとかでなく
事実として死を隣に捉えるようになって
そうしたら
この世に欠片を残したい
という気持ちが湧き起こってきたんだ
ねぇ先生?
先生も
同じ気持ちだったんじゃないかい?
だから……
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僕はこの秋からサロンを始める
内容を書けば
心理学やマーケティングスキルを使って
ビジネスやコミュニケーションを
伸ばしていくことを学び合うサロンである
僕が20年に渡って経営している
モンキーフリップでやってきたこと
また僕とともに
マーケティングを学んできた仲間が
出してくれた結果などをお伝えしていく
ただ伝えていくだけでなく
しっかり系統立てた理論のもと
誰にでも使っていただける知見として、、、
いや
ごめん
そういう
細かいことはいいや
これは
僕の最後の授業で
僕の最後の受け持ちクラス
このサロンの説明会を兼ねたセミナーを
名古屋と東京で開催するので
僕に利用価値があると感じたら
あるいは
僕の欠片を覚えておいてもらえるなら
参加してください
スーツを着て
ネクタイをする
僕史上最高の正装で
あなたの参加をお待ちしています
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サロンの説明会兼発足記念セミナー
「なんでも売れる心理マーケティング」
名古屋
10月28日(金) 19:00〜21:30 ありがとうございます 満席となりました
10月29日(土) 14:00〜16:30ありがとうございます 満席となりました
いずれも名古屋市中区の会議室
東京
11月2日(水) 14:00〜16:30 ありがとうございます 満席となりました
11月2日(水) 19:00〜21:30 ありがとうございます 満席となりました
いずれも東京都高田馬場の会議室
参加費:¥3,000
定員:各回10名