地元の飲食店での話である。
いや正確には、地元の飲食店で見つけた奇怪な文章の話である。
その日僕は、会社のスタッフと連れ立って、改装オープンしたばかりの居酒屋で会社の来年度の計画について夢をリアルに膨らませていた。
ここに書いた通り、リアルにイメージすることは目標達成にとって早道になるから僕は熱を入れて夢を膨らませた。
確かに、酒が入って夢を膨らませると誇大妄想に滑り落ちてしまう危険性もある。あるが、それでも、僕はやる方を選ぶ。単純に確率の問題として。
その晩は、至極快調だった。上手い具合に「イメージの力」が作用して、僕の無意識は愉悦のときを過ごしていた。
問題が起こったのは、トイレの中。用を足そうと洋式便所に向かった僕の目の前にこんな文字が現われたのだ。
ここで僕はあなたに問いたい。
「タク」ってなに?
文章の意味が通じないから「タク」が何かの書き間違い(打ち間違い)であるとの推測には、あなたも異論はないだろう。
では一体どんな言葉と書き間違えたのか?
(これがサッパリ分からない)
状況からして「ヨコのレバーはさわらないでください」ではないかと考えたが、「タク」と「ヨコ」はまったくどこも似ておらず、つまりこの間違いだとは考え難い。
じゃあ「ココのレバーはさわらないでください」か? いや、「ココ」も「ヨコ」と同様「タク」とは似ても似つかないから、「ココ」と間違えたということでもないだろう。
となると。もしかして「タク」という僕の知らない単語がこの世に存在するのか? そう思ってトイレの中でスマホを引っ張り出しGoogle先生を頼ってみたが、「タク」単独の言葉はなく、結果、僕はほとほと困ってしまったのだ。
この「タク」問題。あなたはすぐに正解に行きついたかもしれない。見た瞬間に分かったかもしれない。けれど僕は分からなかった。分からなかったから、それから悶々。ほとほとから悶々。以降は悶々じかけの明け暮れで、具体的にいうと「タクのレバーはさわらないでください」が気になって気になって、スタッフとの夢の話に戻れなくなってしまったのだ。
僕にも、突然、天啓が舞い降りた!
翌日のこと。
くそ! タクめ! と脳内で悪態をつきまくり、帰宅して爆睡して目が覚めて「タク」のことなどすっかり忘れてエクセル開き、昨夜熱く語った計画の実現に向け資金計画を睨んでいたとき。
突然、3文字の天啓が、舞い降りた。
「タンク」
「タンク」だ! 「タンク」だ!
「タンク」の「ン」が抜けたに違いない!!!
3文字を2文字に落とすなど、そんな乱暴な話があるのだろうかと考えないでもなかったが、「タンクのレバーはさわらないでください」、うん、これで間違いない。なぜだか僕は絶対の自信を持って、そう確認したのである。
こういうことってあるよね?
どうしても想い出せなかった言葉(たとえば、昔好きだった漫画のヒロインの名前や、数年前に一瞬流行ってすぐに消えてしまったコントグループや海外ドラマの名前など)が、しばらく経って急に飛び出てきたりする体験。
じゃあこれがどうして起きるか、知ってるだろうか?
天啓が欲しければ、A10神経を刺激せよ!
突然、何かを想い出す理由。
それは無意識の力。
無意識の力が意識の14万倍以上っていうのは、以下で書いた通り。
ここにつけ加えて言うなら「無意識は眠りもしない」のだ。
だってそうじゃん? 僕らが寝ている間も、僕らの無意識は心臓を動かし、血流を回し、体温調節に励んでくれている。何も指示を出さなくても愚直に、誠実に。
それと同じことを、無意識は「問い」に対してもしてくれるんだ。「タク」に対する答えを不眠不休で探してくれたように、無意識は投げかけられた「問い」に対して眠らずにサーチを続け、答えが見つかった瞬間に意識に上げてくれる。
「いやぁ、無意識ってスゲェ。マジ、スゲェ。そんなスゲェ力をさ、もっとガツガツ使ってみたいんだけど、何かいい方法ないの?」って。
あるよ、当然。
A10神経を刺激してやればいい。
そう、エヴァンゲリオンでお馴染のヤツ。
具体的には、
- 鏡に自分の姿を映し、
- 眉間に人さし指を置き、
- その人さし指を見つめたまま、
- 無意識にして欲しいことを呟く。
これだけでいい。
眉間にはこのA10神経が走ってるから、いま伝えた方法でA10神経を刺激すると、指令を無意識にスルリといい感じで入れることができる。理由は以下の通り。
カルフォルニア工科大学のジェームズ・オールズ教授がネズミの脳に電極を埋め込んだ実験で発見したA10神経は、情報をやり取りするとき主にドーパミンを使う。脳に快感や覚醒をもたらすアミンの化合物、ドーパミンだ。
A10神経を見つめて言葉を呟くと、このドーパミンが「快」を伴って脳内に分泌され、「快」が大好きな無意識が大口開けて食いついてくるというわけ。繰り返せば繰り返すほど深く指令が入るので、あなたの望みの度合いによって調整しながらやって欲しい。
もちろん、信じるか信じないかはあなた次第。
が、最後に。気合いを入れるときヒタイにハチマキするのはA10神経を刺激して活性化することでドーパミンを放出するためだ、と日々眉間に指を当てブツブツ呟いている僕から付け加えておこう。
illustration たかみまさひろ